原子力発電はどのような仕組みで電気を作っているの?
環境に優しいというのは本当?
原発のメリットデメリットは?
原子力発電は少ない燃料から大量の電気を発電することが出来るため、
資源の少ない日本には必要不可欠なものでした。
また、二酸化炭素を排出しない、
クリーンなエネルギーとして注目も集めていました。
しかし東日本大震災での福島第一原発の事故から、
状況は一変しました。
一度事故を起こしてしまうと、
取り返しのつかないことになってしまう原発。
原発については専門家の間でも賛否両論ありますが、
既に稼働された原発もありますし、今後もその数は増えると思われます。
ここでは、原発の仕組みやメリット・デメリットについて解説していきます。
日本のエネルギー問題を、
もう一度考えるきっかけにして頂けたらと思います。
原子力発電のしくみとは?
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〇原子力発電の仕組み
まずは原子力発電の仕組みを見ていきましょう。
今日本の電力をメインで担っているのは火力発電ですが、
原子力発電と火力発電は、同じ仕組みで発電しています。
- 火力発電
ボイラーの中で、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を燃やし、
その熱エネルギーを利用して蒸気を作り、その力でタービン発電機をまわして電気を作ります。 - 原子力発電
ボイラーではなく「原子炉」の中で、化石燃料の代わりに、
「ウラン235およびプルトニウム239の核分裂」を利用して蒸気を作ります。
核分裂反応は、ウラン235やプルトニウム239に、
中性子がぶつかることによって起こります。
一度核分裂反応が始まると次々と連続して反応が起こり、
これにより熱エネルギーが発生します。
核分裂によって発生した熱は、
その周りの水を高温・高圧の蒸気に変えます。
この蒸気が配管を通ってタービンに送られ、
タービン軸に直結した発電機を回して発電します。
タービンを回し終えた蒸気は、復水器内という場所で冷却され、
再び水となって原子炉に戻されます。
〇原子炉の種類
原子炉は世界中にたくさんの種類がありますが、
代表的なものは次の4つになります。
- 軽水炉
- 重水炉
- 黒鉛炉
- 高速増殖炉
日本で主に使用しているものは軽水炉ですが、軽水炉にも、
「沸騰水型軽水炉(BWR)」と「加圧水型軽水炉(PWR)」の2種類あります。
日本にはその両方の型が設置されています。
原子力発電のメリットは?
では、原子力発電のメリットはどのような点なのでしょうか。
大きな利点として次の4つが挙げられます。
- 少しの燃料で莫大な電力を生み出すことが出来る
- 地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を排出しない
- 燃料の中東依存度を減らすことが出来る
- 技術力があることをアピールできる
1.少しの燃料で莫大な電力を生み出すことが出来る
原子力発電の燃料となるウランは、石油などの化石燃料に比べて、
ごく少ない量で莫大なエネルギーを生み出すことが可能です。
そのため、燃料の運搬、貯蔵の面でも優れています。
2.地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を排出しない
火力発電は燃焼時にどうしても二酸化炭素を排出してしまいますが、
原子力発電からは二酸化炭素は発生しません。
3.燃料の中東依存度を減らすことが出来る
1970年代の石油ショックのような事態を二度と起こさないようにするためには、
中東以外からの世界各地から燃料を輸入する必要があります。
燃料となるウランはカナダやオーストラリアなど、
比較的情勢が安定している国から輸入しているため、
電力の安定供給に繋がります。
4.技術力があることをアピールできる
原子力発電は、非常に複雑で高度な技術が必要な発電システムです。
それを適切に行えるということは、
その国の技術力を反映していることになるので、
日本の国力をアピールすることに繋がります。
原子力発電のデメリットは?
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次に、原子力発電のデメリットを見ていきましょう。
原発事故以降、様々な問題点が指摘されています。
- 重大事故が起こると周辺環境に甚大な被害を与え、その影響は地球規模に及ぶ
- 放射性物質である核廃棄物を作り出す
- 高レベル放射性廃棄物の最終処分地が決定していない
- ウランも他の化石燃料のように将来枯渇する恐れがある
- 軍事転用の可能性がある
- 非常時に停止させるまでの所要時間が長い
- 火力発電所と比べ、施設建設に多大なコストがかかる
- 立地場所が限定されるため、送電ロスが発生する
- テロの標的になる恐れがある
- 若手技術者が減少傾向にあるため技術の継承が困難になっている
やはり最大のデメリットは、その「危険性」ではないでしょうか。
事故が起きた場合の危険性は、
他のどんな発電方法よりも極めて高いと言えるでしょう。
そして一度事故を起こしてしまうと、修復までに何十年も掛かってしまうのです。
石油燃料に比べ、ウランは安価で、かつ、安定しているのがメリットでしたが、
建設費用や放射能廃棄物の処分に掛かるコストなど、
総合的に考えると原発がどの発電方法よりも安いとは言えません。
また、事故を起こしてしまえば、
莫大な賠償金が発生することも考慮する必要があるでしょう。
原子力発電はどのような場所に導入されているの?
〇日本では
原子力発電は、約50年前から行われている発電方式です。
日本では、1966年に東海発電所(東海原発)が出来たのが始まりで、
2010年時点でエネルギーの約23%を原子力発電でまかなっていました。
東海発電所は既に運転を停止しており、
今後、原子炉を解体する作業に移っていきます。
〇世界では
世界全体では、400以上もの原子炉が稼働しています。
一番多いのがアメリカで、次いでフランス・日本・ロシアと続きます。
アメリカ・日本・ロシアは原子力発電の割合が全体の15%~25%ほどですが、
フランスは75%以上と突出しています。
〇今後の動向
日本での原発事故を受けて、
原発を廃止する方向に進んでいる国もあります。
廃止の方向に進んでいる国として、ドイツやスイスなどが挙げられます。
ですが、逆に推進している国もあります。
廃止の方向に進んでいたスウェーデンは、
一転して既存の原発を建て替えして使うことを決定しました。
世界の潮流は、どちらかと言えば原発推進の方へ流れているようです。
人口の多い中国やインドはもちろん、
東欧など新興国と呼ばれる国は原発を増産する予定です。
事故当事国である日本は、どちらの流れに乗るのでしょうか。
原子力発電の環境への影響とは?
福島第一原発の事故の後、全ての原発が停止しました。
日本経済新聞の記事によると、翌年の2012年の、
二酸化炭素(CO2)排出量は前年比で5.8%の増加になりました。
原発停止により、
石炭や石油の火力発電が増加したことが原因だと言われています。
1970年代以降の電気事業からのCO2排出量の推移からも、
原子力発電のCO2抑制効果がよく分かります。
25年間で日本の電力需要は3倍に増加したにもかかわらず、
CO2の排出量は約2倍の伸びに抑えられているからです。
また原発は、石油や石炭の火力発電の際に、大気に排出される、
硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)なども排出しません。
これらのことから、クリーンなエネルギーであり、
地球温暖化問題に貢献できると言われています。
しかしこれらは、全て安全に運転出来ている場合のみ、有効なことです。
重大な事故が起こった場合、外部へ大量の放射性物質が放出されます。
その時は、「人体への影響」「土壌や海洋汚染」を始めとする様々な問題に、
地球規模で影響されてしまうのです。
環境に優しいエネルギーである、と簡単に言うことは難しいでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
原子力発電はその仕組みから、日本のように資源の無い国において、
非常に有用な発電システムであったことは確かです。
しかし一度事故を起こしてしまうと被害は甚大で、
そのリスクを考えると決してコストが安いとは言えません。
二酸化炭素を排出しないという環境面での優位性も、
安全に運転できていれば、という条件が付きます。
世界を見渡すと、新興国を中心に原発は今後も増える見通しです。
日本でも今すぐ全ての原発を廃止することは難しいかもしれませんが、
燃料であるウランもいずれ枯渇してしまうのですから、
早く代替エネルギーが見つかることを願います。